第37章 初恋
「そうか…。じゃあ、機嫌はいいのか?」
「よくも悪くもありません…」
「…なぁさっき、」
「はい?」
見上げた睦を
逃げられないよう両腕で抱きこんでから、
「俺のこと好きだって言ったよな」
目を見据えたまま訊いた。
気まずそうに目を逸らし、
「…そうかもしれませんね、」
ふわふわした事を言いやがる。
「だいすきな俺と一緒にいるのに
なんで機嫌がよくねぇの?」
「だいすきなんて言ってませんよ!
好きですって言ったんです!」
言ってしまってから
焦ったような素振りを見せ、
指先で口を塞ぎ真っ赤になった。
「なー、そう言ったよな」
可愛い可愛い。
可愛いからずっと見てたいけど、
しょうがねぇから隠してやるよ。
照れると泣くもんな。
小さな頭を自分の胸に押し当て抱きしめる。
素直に
自分の気持ちを認められるようになるには
もう少しだけ時間がかかりそうだ。
何しろこいつは、恋を知らねぇ。
いや、恋どころか
人との関わりに疎い。
その上、ツラい過去のせいで
自己肯定感が極端に低い。
そこを何とか、
俺の愛で満たしてやらねぇと
どうにもならねぇよな…。
でも、俺を嫌っていたくらいだった睦が
この短期間でここまでの変化を見せたのだ。
きっと、あとひと押しだと思ってる…
「す…好き、とは言いましたけど…
宇髄さんの思ってるようなのとは、
違う、かもしれないし…」
顔が見えなくなった事で
睦は少しだけ安心したのか、
更に突っ込んだ事を口にした。
ほぉ、そう来たか…。
「人として好きなのか
男として好きなのかわからねぇ、と…?」
「…うん」
思っていたよりも、
すんなりと自分の事を話してくれるな。
単に照れ隠しなのか、
それとも本当にわかっていないのか…。
拙い話し方はどちらのせいだろう。
「でもなぁ睦…?」
「はい…」
「…惚れてもいねぇ男に、
あんなコトさせるか…?」
「あんな…?」
俺の腕の中で首をひねる睦には
思い当たる『あんなコト』がないらしい。
しょうがねぇからわからせてやろう…。