第36章 満つ
そんな僕の耳に、
事を進めていく声が届く。
「よし!じゃあ、お医者さんごっこよ?
皐月がお医者さんね」
「さっちゃんもしもしー?」
「そう、しっかり頼むよ?」
そう言いながらお姉ちゃんは
僕の体を、ゆっくりと抱え上げた。
「え……いた、っ」
「ごめん、ちょっと我慢して」
さっとは比べ物にならないくらい、
お姉ちゃんの声は優しくて…
「皐月先生?お兄ちゃんの怪我を
手当てしますよー。
お部屋へいきましょう!」
「あーい!にに、がまんがまん!」
「そうそう、患者さんを励まして下さーい!」
「あーい!ににかっこいーですー!」
「…ふふ、」
それは励ましじゃないかも…。
「はい、患者さん笑ってますよー。
皐月先生、もっと元気にしてあげて下さーい!」
僕を抱えて、
ゆっくりゆっくり歩きながら
お姉ちゃんは皐月をその気にさせる。
さすが、お姉ちゃん…
「あいあーい!もうすぐねー!
ごめなしゃいねー」
「何がごめんなの?」
思わず訊いてしまった僕を見上げて
「どーんして、ごめなしゃいねー」
くたりと頭を下げる。
それを見て、お姉ちゃんと僕は目を見合わせて
「あはは!」
声を上げて笑った。
上半身はがたがただけど、
幸い足は何ともなくて
それでもお姉ちゃんの優しい誘導に合わせて
僕たちは部屋へと向かった。
優しいお姉ちゃんと、
可愛い妹に支えられて、
僕の心は和らいだ。
3つ。
3人いれば、満たされる。
晴れ渡る5月の空は僕の心を洗ってくれて
痛む体も軽くして…
いつまでもこんな時間が続いていく予感に
心躍らせていた。
☆彡