第34章 反抗期
「……仕舞いにゃ俺だって怒るぞ」
「はぁい。肝に銘じます」
綺麗な所作でお辞儀をし、
睦月は小さく微笑んで見せた。
「でも僕、お母さんのこと
ほんとに大好きだからね」
ムッと口をへの字に曲げた天元にも
「お父さんも大好き。
ちゃんと家族するつもりだよ。
スカしてばっかりじゃ
カッコ悪いからね」
晴れやかな笑顔を向けた。
まるで、可愛い頃に戻ったみたい。
憑き物が落ちた、っていうのは、
言い過ぎかなぁ…?
もう1人も、うまく片付いたような気がして
ホッと全身が緩んだ。
のも束の間。
「おかあさん‼︎」
1人目の厄介者が戻って来たかと思うと
「帯が決まらないのー!
いつものヤツどこ行ったのよー!」
泣き出しそうな勢いで喚き出した。
「いつもの和箪笥にあるでしょう?
ちゃんと見たの?」
「見たよ‼︎無かったもん!」
うそだ。
私は昨日、きれいにしてから
ちゃんとしまったもの。
その着物には
絶対にあの帯を合わせるのを知っていたから。
「ちゃんとしまってあります。
よく見なさい」
「見た!」
どうだろう、この頑固さ。
さすがに私もカチンときた。
「私が見に行って、
ちゃんとしまってあったら
これから何にもしてあげませんからね‼︎」
「え…ッ、ま、待ってよ、
もう1回見てくるから…!」
私の強気な態度に
弥生は何かを感じ取ったようだ。
ここまでの自信をもって言う私に
自分を疑い出したのだろう。
でも私にだって限界はある。
「待ちません!」
立ち上がった私は
呆然とする天元と睦月の間を抜けて廊下に出た。
「待ってよ、自分で見るから…!」
ごめんなさい、と言うのなら
或いはとどまるつもりでいたけれど、
そこまでの素直さは反抗期娘にはないらしい。
故に、
「私が見ます!」
実行する。
そろそろ黙ってもらわないと。
私の去った部屋の中、
「お母さん怒ると怖いよね」
「あぁ、気をつけような」
繰り広げられたそんな会話、
私に聞こえるはずもない。
☆彡