第34章 反抗期
「へぇ……なりそうか」
「わかんない…」
「まぁ、そうだろうな」
私の胸元から顔を上げて
クッと顎を持ち上げる彼に
口づけの予感がして
「…弥生が戻って来るよ」
やんわりとお断りをする。
「あぁ、そうかもな」
見せつけてやる勢いの天元。
それは阻止したい私。
「そうだよ、…だから」
やめて、と言おうとした時、
「…お母さん」
襖の向こうから
弥生とは違う声が私を呼んだ。
返事をしようと襖に顔を向けると
天元の大きな手が伸びて来て
私の口を塞いだ。
「⁉︎」
何するの!と目で訴えると
彼自身も、自分の行動に驚いたのか
戸惑ったように瞳を揺らしている…
私の顔の下半分を覆った手を両手で掴んだ。
どかそうと力を入れても、
向こうも同じだけの力を込めて動かせない…
戸惑っていた割には
しっかりと口を塞いでくるな。
私は仕方なく、
指だけを握って少しずらした。
「…っはい!」
「あッこら…!」
襖に向かって返事をしたのと、
抗議の声はほぼ同時。
スッと開いた襖の向こうには
身なりをきっちりと整えた睦月が膝をついていた。
「おはようございます。
お母さん具合でも悪いの……」
私の心配をするような言葉を紡ぎながら
部屋の中の様子を目にした睦月は
みるみる目を見開いて
「お母さん!」
ととっと私の元に駆け寄った。
寝転んだままの天元に口を塞がれ、
膝の上にしなだれかかられている姿は、
睦月からしたら
拉致でもされているように
見えたのかもしれない。
天元の手をぺいっと跳ね除けて
「お母さんに手荒な事しないで!」
割と本気で天元に意見した。
跳ね除けられた天元は、
ただ驚いたように目を見開いて
身体を起こし私の隣に座り直した。
手荒な、というか…
天元自身も予想外の行動だったに違いない。
睦月は天元を悪者だと思っているのかな?
と、
思ってしまう程、最近天元に厳しい…。
誰かと誰かの関係のようだ、
と思わざるを得ない…
「大丈夫?」
心配そうに私を覗き込む睦月は、
わざとそう見せているようにも思えてくる。
「大丈夫だよ。睦月はどうかした?」