第34章 反抗期
悲しそうで、申し訳なさそうな
こんな声を
ついさっきも聞いたような気がする…。
なんだろう…
私が不機嫌になっている場合では
ないように思えてきた。
「…なんだかよくわからないけど、
私のためにしてくれたって事?」
「お前のためにしか俺は動かねぇ」
はっきりそう言い切る天元はかっこいい。
…いやいや、かっこいいなんて
惚けている場合じゃなかった。
「何をそんなに怒ったの?
あの子たち怯えちゃって、
天元呼びに行くのすっごく嫌がったんだよ?」
「だから睦が来てくれたのか?」
「……嬉しそうですこと」
「そんな顔すんなよ。
…お前が来るなら毎日怒ってようかな」
「なんてこと言うのよ!」
「冗談だ」
当たり前だ!
ものすごい事をしれっと言いながら
それでも優しい香りのする天元は
私を自分に押し付けるように
抱きしめ直す。
…存在を確かめられている感じ?
「そんなに怒る事があった?
弥生の態度?」
あの子たちからは聞き出せなかった事情。
天元なら話してくれるのかな?
「弥生がどんなでも俺はいいよ。
可愛いしな」
「…そうよね」
いつもの天元なら、
少しの事なら許すもん。
「お前に…」
「……私に?」
「弥生がお前に偉そうにするからよ。
俺がこんなに可愛がってんのに」
「えぇ?」
「俺が可愛がってる睦を、
あんな態度取って悲しませるから悪ィんだろ」
「……えぇ?」
「だから、何とでも思えよ。
しょうがねぇだろ!やなモンはやなの」
……えぇぇ⁉︎娘相手に?
——やなの、って…
可愛いな。
「昼間あんなだったのも、
弥生になんか言われたからなんだろ」
「いいのよ私は」
「いい事あるか」
「私がいいって言ってるんだから!」
「俺がよくねぇって言ってんだよ!」
……だめだ。
これじゃ平行線だ。
「弥生はそういう時期なんだって。
あれぐらいの時は私もああだったんだって」
少し言い方を変えてみると
「…睦が?」
私を真正面に見据えて
信じられないように目を見開いた。
「そう、おばちゃんが言うんだから
間違いないよ」