第5章 消息盈虚
「お前に会いたかった」
力いっぱい抱きしめてくれる。
淋しいのも、不安な気持ちも、全部溶けていく。
「睦」
名前を呼ばれてドキッとした。
私をそっと離し、
首にしがみついて離れない腕を解こうとする。
「睦…」
私はいやいやと首を振る。
「おい…?」
いやだ。
こんな顔、見せたくない。
「顔見せろ」
ホラ来た。
「…いや」
「…何でだ」
「…ひどい顔、してる」
「んなの気にしねぇ」
「私はするの」
見られたもんじゃない。
昨日から泣き通し。
誰がこんな腫れ上がった目を見せたいと思うか。
「なぁ、こっち向いてくれ」
「…」
「睦」
「やだ」
「お前なぁ、
昨日からずっと待ちぼうけくらわせといて…」
「私は1か月以上待ったもん」、
「…っお前な」
少しイラだったような声。
わかってる。
宇髄さんのせいじゃない。
突然耳に、フッと息を吹き入れられ、
「わあっ!」
私は耳を押さえて身体を引いてしまった。
しまった。
慌てて横を向くが、宇髄さんの手に
正面を向けられる。
恥ずかしくて、目を伏せた。
「…睦、俺の想いをなめんなよ。
んな目ぇ腫らしてんのも、俺のためだろうが」
私はそう言われ、つい宇髄さんを見てしまう。
目が合ったら最後。
…そらせない。
「睦の顔がどうなろうと俺はお前を…」
そこでふと、言葉を止めた。
そして私は気がついた。
彼の、左目。
眼帯から少しのぞく、傷痕。
宇髄さんは今、自分のそれを思い出した。
『睦の顔がどうなろうと俺はお前を愛せるけど、俺の顔がどうにかなったらお前は俺を愛せるか』と、
不安に思ったに違いない。
そんな顔してる。
この人の心の声が聞こえる。
私は両手で宇髄さんの頬を包んだ。
「私の想いもなめないで下さいよ。
顔だって好きだけど、
それだけじゃないんですからね。
どんな宇髄さんだって、大好きなんだから」
言いながらまた泣き出す私を見て、
眉を下げて微笑む宇髄さん。
「…俺の考えが読めるとは大したもんだな」
私をそっと抱き寄せて頭を撫でてくれる。
「睦の元に戻れてよかった…」
そう呟いて、優しく口づけを落とす。