第7章 それぞれの想いはーー
そんな矢先、先に口を開いたのは不二だった。
『…ねぇ、手塚』
『何だ』
『僕は、あの子たちを知らない』
『…あぁ、俺もだ』
『なのに、おかしいんだよ…』
『おかしい…?』
『知らない子なのに、僕は…高津さんの涙を知ってるんだ』
不二は、“ごめん、忘れて”そう言って家の中に入って行った。
なぁ、不二…俺もお前と同じことを思った、と言ったら
ーーお前はどんな顔をするだろうか。
『ーーただいま帰りました』
『お帰りなさい、国光。そう言えば、あなた昨日いつ帰って来たの?』
『は?俺は昨日ずっと部屋で勉強してましたけど』
『いいえ、居なかったわよ。お昼呼びに行ったらノートも教科書も開きっ放しで。携帯に掛けても繋がらなかったわ』
記憶を辿っても、家を出た記憶は一切ない。
ーーその瞬間、頭を流れた映像は…俺が失くした夢みたいな記憶。
ー「やっぱ国光っちゃんって呼んでい?」
『…突然だな。少しはこの空気を読もうとは思わないのか』
『ダメよ、国光。この子KYだから』
「KYとかやめてちょ。んで?」
『…好きに呼んでくれて構わない』
「うい。では、国光で」ー
ーーあぁ、そうか…
俺は不二に電話を掛けた。
『ーーー不二か?』
《…手塚っ、僕…っ》
『ああ、紗耶も芹佳も…確かに居た、ーー俺たちの記憶の中に』
《…っ、うん…》
『今から行く、少し待っていろ』
彼女たちは、確かに俺の記憶の中に居たんだ。
空白の時間
(俺たちの空白の時間は、確かに存在したのだ。)