第5章 これが私たちの世界です
『…だからって逃げてどーすんだ』
「逃げる以外に何ができるの?…私は景吾みたいに強くないんだよ」
『俺だって、初めから強かったわけじゃねぇよ。…お前にならわかんだろ?』
あ…馬鹿だ、私…景吾が私の気持ちを分かるように、
私にも景吾の気持ちが分かるはずなのに。
「…景吾ごめん、今のは失言だった」
『もう一度聞くぜ。ーーこのままでいいのか?』
私はこのまま、紗耶を失ってもいいの?
ううん、良くない…だって、私はーー…
『芹佳、紗耶を追い掛けるなら付き合うけど?』
周助の悪戯っぽい笑みに私は苦笑を漏らして
差し出された手に自分の手を重ねた。
「…お願い、してもいいかな」
『もちろん。そんなに時間は経ってないからすぐに追い付けるよ』
「うん」
ーーあのね、紗耶。
弱い私だけど、何も守れないかもしれないけど
それでもね、私は紗耶と一緒に居たいの。
ね ぇ 、 ま だ 友 達 で 居 て く れ る ?
これからの楽しい事、悲しい事、まだまだ一緒に共有したいの。
もっともっと、あなたと一緒に笑い合いたいの。
『ちょっと待って、芹佳。僕まだ靴履いてない』
自分だけ靴を履き終わると、はやる気持ちを抑え切れず
のんびりと靴を履いてる周助を急かす。
「周助早く!早くしないと『早くしないとどうなるの?』
「分かってるでしょ!紗耶に追い付けなくなっちゃ、」
『その心配ならないんじゃないかしら?』
私と周助以外誰も居ないはずの玄関から聞こえた声に、
私は外に顔を覗かせると、右側に国光、左側には…
紗耶が腕を組んで壁に背を預け立っていた。