第5章 これが私たちの世界です
(act.06‐放棄したくないから‐)
『…芹佳、そんなに強く手を握ったら爪が食い込むよ。…紗耶、呼ぼうか?』
「ーーっ!呼ばなくていい!ダメ、…呼ばな『悪いわね、もう手遅れよ』
聞き覚えのある声が玄関から聞こえて私は顔を上げた。
すると、そこにはーー…
「…紗耶、何で…」
『あはっ、ごめんね。来た時から芹佳の様子がおかしかったから手塚に頼んで迎えに行ってもらったんだ』
「なっ、何でそんな余計な事…っ!!」
『…だ、そうよ周助。悪いけど国光、帰るから送ってってくれる?』
私は、紗耶と目を合わせる事なんてできなくて、
ソファーの上で自分の膝を寄せて、そこに顔を埋めた。
『…いいのか?』
『仕方ないでしょ、芹佳がああ言ってるんだし』
『…仕方ないね、悪いけど手塚。もう一度紗耶を送って来てくれない?』
『わかった』
そしてその空間にガチャン、と音が聞こえて、
紗耶と国光がその場から去った事を告げた。
『…いいのかよ芹佳、アイツはお前を心配してここまで来たんじゃねぇのか?』
分かってるよ、そんな事、
景吾に言われるまでもない、ーーでも、
「…これでいいんだ。もう、紗耶とは深く付き合わない」
『ーー友として相応しくない、縁を切れ』
景吾のその言葉に、俯かせていた顔を勢い良く上げる。
そしたら景吾は、苦笑を浮かべてた。
あぁ、景吾も跡部財閥の御曹司だった、と改めて実感させられた。
『父親に言われたのか?』
「…景吾も言われた事あるの?」
『あるな。だが、俺はそれだけは譲らなかったぜ?…アイツらと出会ったから、仲間が居たから今の俺が居る。お前は違うのかよ』
「ーー違わない。違わないけど、でもこれから先…お父様が紗耶に手を下したら…何の力もない私じゃ、守れないよ…」
何もできないの、私自身に、力なんてない。