第8章 見た夢はあまりに儚くて
『不二さんが好きなんでしょ!?だったらこの世界に居ればいいじゃないっすか!』
『切原、落ち着いて。そりゃ、僕も芹佳にこの世界に居てほしいよ…』
『だったらっ『でも、芹佳の人生は芹佳のモノなんだ。彼女が決めた事に、僕は反対なんかできない』
「…聞いて、赤也。私ね、本当は周助と離れたくないし、皆とも一緒に…この世界に居たいよ」
『だったら、居ればいいじゃないっすか!』
「でもね、自分の世界を捨てる勇気もないの。私を駒としか思ってないって分かってても、あの人たちを捨てる事もできない。産んでくれたこと、感謝してるから」
『だ、けど…っ』
お願い、赤也…それ以上言わないで。
本当はここに居たいと揺らぐ私の決意を壊さないで。
零れそうな涙を必死に耐えて笑う。
『切原、それくらいにしてあげて…』
『…不二、さん?』
『わかってあげてよ、芹佳も苦しいし、悲しいんだって事…』
『分かってるっすよ!だけどこんなのって…!』
『ーー二人して同じ答えかよ』
景吾のその言葉に、私は目を見開いた。
「…え?」
『帰るわよ、あたしも』
「え、だって…景吾と…」
『あたしは、両親の事なんてどうでもいい、でも…智広だけは、弟だけは捨てられない。あんな状態の親にあの子は任せられないの』
目を真っ赤にした紗耶は、とても綺麗に笑った。
でもきっと、私の目も真っ赤だね。
「『…帰ろっか、ーー私たちの世界へ』」
それは、私たちが二人して出した結論で、誰にも覆す事なんてできない。
でもね、この世界で、紗耶と、周助と、皆と笑って過ごす事が出来たら…
ーーそれは、私たち二人が願った、確かで、切実な願いだったの。
『ーー芹佳、僕はっ…世界が違っても、本気で君が好きだった…』