第3章 月明かり
い、いえっ、そんな…
こちらこそ、ありがとうございますっ
慌てて返事をしながら、
今、自分も鬼に食べられる所だったと、
ようやく気がついた…。
とたんに身体が震えてきてしまう。
それを隠すように、早口で言葉を紡ぐ。
あ、あなた、、柱…さんが居なければ、
私も食べられてしまうところでした…!
なんとお礼を申し上げればいいか…
すると、すぐ近くに人の気配がして上を見た。
柱、と言っていた彼が立っていた。
いや、君に怪我がなくて良かった。
ところで、俺は確かに柱だが、
名は煉獄杏寿郎という!
君の名は、なんというのだ?
名前を聞かれ、
震えが収まらないにも関わらず、
胸が高鳴るのを感じた。
…美玖と申します。
あの、本当に、ありがとうございます。
煉獄様。
そう伝えると、
煉獄と名乗った彼は
ふっと優しく微笑み、
様はいらない。
杏寿郎と呼んでくれ。
美玖。
そのままギュッと抱きしめられた。
びっくりして俯いていると、
さぞ怖い思いをした事だろう。
家まで送っていこう。
優しく声をかけられ、
杏寿郎さんの体温を感じて、
先程からの震えも収まってきた。
…はい。ありがとう、ございます。
杏寿郎さんはまたニコリと微笑むと、
私の手を取り、歩き出した。
とてもかっこいい人なのに、
笑うととても可愛らしく感じた…。
胸が、さっきから煩い。
繋がれた手から、
心臓の音が伝わってしまいそう…。
早く帰りたかった筈なのに、
今は、まだ着かないで欲しいと、
そう願ってしまう…。
ふと、隣を盗み見ると
月明かりに照らされる杏寿郎さんは、
やはり、とてもかっこいい…。
つい、少し、手をギュッと握ると、
それに応えるように
更に強く、手を握り返してくれた。
このまま、、
もう少しだけ、、
そう、願わずにはいられなかった…。
fin