第8章 炎柱の恋 杏寿郎side
どのくらい経ったのか。
どちらの体温なのか分からぬ程、
きつく抱き合っていた。
飽きる事もなく。
美玖が不意に
俺の胸をゆったりと押し返した。
き、杏寿郎さん…
あの、もう、大丈夫…です。
本当に、ご心配をおかけして、
本当にごめんなさい。
もう、大丈夫ですから、
だからっ…もう…
離してくれ、という事だろう。
少し、声に羞恥の色が見える。
愛らしいな。
つい、
意地の悪い事をしたくなってしまう。
離れようとする美玖の背に
再度力を込めて引き寄せる。
慌てて、一瞬で耳まで赤く染めてしまった。
美玖の事をとても愛おしく感じる。
美玖、先日君は、
俺を慕ってくれていると、
そう言っていたな。
…すまなかった。
突き放すような真似をしてしまった。
今日、街で君を見かけた時、
男達と待合に消えていく君を見た時…
唐突に理解した。
…妹と言ったのは訂正する。
俺は、美玖の事を
愛している。
美玖は、
俺の話を黙って聞いたあと、
震える声で言葉を紡いだ。
ほんとう、ですか…?
夢だったら…いやですよ…?
瞳いっぱいに涙を浮かべながら
俺を見上げている。
…愛い…!!
危うく、叫びそうになるのを堪え、
美玖の顔を覗き込む。
安心しろ。夢ではない。
何度でも言おう。
俺は美玖を愛している。
美玖の瞳が揺れ、
涙が溢れる。
頬を伝う涙は、
月明かりに照らされ、
とても、綺麗だった。
そのまま、
吸い寄せられるように顔を寄せていき、
美玖に口付けた。
杏寿郎さん…
私も、愛してます。
美玖が、
笑みを浮かべて声を発する。
本当に、俺は何故、
ずっと気が付かないでいたのだろうか。
目の前にいる、
この美しい娘への自身の気持ちに。
ダメだ…。
もう、止まれない。
そのまま、
何度目か分からない口付けを交わし続けた。
深く、互いの熱を感じながら。
これから先、
何があろうと、
決して君を離さないと
君を守り続けると
今、ここに誓おう。
愛している。
fin