第8章 炎柱の恋 杏寿郎side
4年前…美玖が11の頃か。
今日のようにこちらへ寄り、
夕餉を振る舞ってもらった。
母上が不在で、
1人で一生懸命に夕餉の支度をしてくれた。
その日の夕餉は…
お世辞にも美味いとは言い難かったが、
頑張って作ってくれた事がとても嬉しかった。
美玖も、もう15か。
いつ嫁に行ってもおかしくない年頃だ。
いずれ、夫と子の為に、
食事を振る舞い、
穏やかで幸せな日々を過ごすのだろう。
物寂しい気分になる。
だが、それが美玖にとって、
1番幸せな道なのだろう。
良い人と、一緒になって欲しい。
前方に視線を移すと、
昔の失敗談を持ち出され、
少し拗ねた様子の美玖。
はっはっは!
いい思い出ではないか!
この腕前なら、
すぐにでも嫁に行けるぞ!
自信を持つといい!
からかい混じりに言えば、
唇を尖らせ、
お嫁なんてまだまだだと言う。
子供のような事を…。
諭すように、
先程感じた事をそのままに伝える。
美玖もいつまでも子供ではないのだ。
もう15になるだろう?
もう、いつ嫁に行ってもおかしくはない。
だが、変な男はダメだぞ?
兄代わりとして忠告しておく。
すると、
……別に、誰だっていいです…
ダメな男でも、何でも…
なんと!
よもや、よもやだ!
そのような事、言わないでくれ。
むっ!
そんな事を言うものではない!
自分の身をもっと大事に…
話を続けようとすると、
遮られてしまった。
そんなこと!
杏寿郎さんに言われたくありません…!
杏寿郎さんを兄と思った事なんて、
1度もありません…!
なんと…。
兄代わりなどと、
俺の独りよがりでしかなかったというのか。
これまでずっと
兄妹のように接してきたつもりだったが、
美玖は、違ったのだな。
だとしたら、
確かに余計な事を言ってしまった。
…そうか。
だが、俺は美玖を妹のように思っている。
それは、忘れないでいて欲しい。
仮に、美玖が迷惑に感じていようと、
俺の気持ちは変わらない。
妹のように、家族のように、
大事な存在なのだ。