第9章 ep.08 不思議な気分
リディア
「ぐ、ぁ…っ…殺すなら、さっさと殺してよ」
ヴィンス
「やめろ、殺すな」
ヴィンスに命を頂戴と言われてからは不思議とリディアは死にたいと思わなくなったが、視界を奪われて与えられる痛みは通常よりも強く…つい、元の思いが溢れてしまった
男
「お前が思い出せば良い話だろ。さっさと思い出せよ」
首を垂らしてしまったリディアを見てヴィンスは思い出そうと焦るも中々、思い出す事が出来ず更に焦る
男
「お前…配給に来た事、覚えてないのか」
ヴィンス
「配給には色んな所に行ってるからね…」
男
「覚えてるわけねぇよな?俺がもう少しガキだった頃だし。…俺には病弱な妹がいた。その妹に食いもんをあげたくてお前の所に行ったんだ。なのに…お前はな、配給に来たくせに俺に…もうないって言ったんだ…っ。お前のせいで妹は、餓死したんだ…!」
男の言葉にヴィンスは記憶を巡らせ、ある一つの事を思い出す。
ヴィンス
(あの時の…)
ヴィンス
「君、馬鹿だね」
男
「は?」
ヴィンス
「…あの子は自分の食べ物を小さい子に恵んでた。それを俺は見てた。だから、残ってたのを彼女に渡したら…私は良いからお兄ちゃんにあげてって言ったんだ」
男
「は…?う、嘘だ…そんな事」
ヴィンスの話に男は動揺したように声を震わせる。
貧しい人達が食べ物にありつけず亡くなってしまうなんて事は珍しい出来事ではない。
それが、幼い子で更に病弱であれば尚更だ…貧しい生活において優しさは命取りになる事がある
貧しい暮らしでは強かに生きるしかないのだ
ヴィンス
「自分の妹なのにそんな事しないとでも言えるのか?兄だから分かるんじゃないの?彼女ならしそうだって」
男
「くそ…っ、何だよ…俺のせいかよ…!くそっ!!」
自分の思い違いであった事に自棄になった男はリディアに向けてナイフを振りかぶった
─バンッ
男
「ぐっ…!」
銃声が響いた後、男の声とナイフが地面に落ちる音が響いた。
その腕を止めるためにヴィンスが、腰に刺さっている銃を抜きナイフを持っていた手を撃ったのだ
ヴィンス
「さっさと消えろ。俺が君を殺す前にな」
地を這うような声と圧に男は押され、転びそうになりながら倉庫を出て行く