第9章 ep.08 不思議な気分
それから他愛ない会話をしてから、店を出た二人は雑貨店や洋服店が並ぶ通りを肩を並べて歩いていた
ヴィンス
「どこか入りたい所はあるかい?」
リディア
「どのお店も可愛い……あ、あそこが良い」
きょろきょろと視線を色んな所へ向けていたリディアが指をさしたのは淡い色の雑貨店だった。
そこへ脚を踏み入れると、男性というだけでも当たり前の様に目立つのに長身で整った顔を持つヴィンスは更に目立つ
だが、女性から向けられる視線を気にしていないのかヴィンスは店内の物を見て回り、リディアに近付く
ヴィンス
「何か良いのはあったかい?」
リディア
「へ?…い、いや…」
何かを熱心に見ていたリディアにヴィンスが声を掛けると慌ててリディアは首を振ったが、彼には効かなかったようで
ヴィンス
「これ?…良いじゃないか」
リディア
「え、ちょ…ヴィンス…っ」
リディアが止めるのも聞かずにヴィンスはそれを持って支払いに行ってしまった。
リディア
「本当に良かったの?」
ヴィンス
「勿論。…それにこれは俺からのお礼だよ」
リディア
「お礼?」
ヴィンス
「嗚呼。俺とデートしてくれた、ね」
あの後、店から出た二人はベンチに腰掛けて会話をしていた。
ヴィンスはリディアの方へ身体を向けると柔らかく微笑みながら買ったばかりのイヤリングを彼女へ見せた
ヴィンス
「ほら、耳貸して。つけてあげる」
リディア
「え、良いよ」
ヴィンス
「良いから良いから。ほら」
再び押し負けたリディアは隠れていた耳に銀髪をかけてヴィンスの方へ向けた。
リディアの耳にヴィンスの細く綺麗な、でも男性らしい手が近付き彼女の耳朶へ雫型のシンプルだが動くと小さく揺れる翡翠色のイヤリングをつける。
その間、リディアは近い距離にあるヴィンスの顔に心臓が内側から激しくノックをしていた
ヴィンス
「よし、出来た。…良いね」
離れたヴィンスの少し大きめの切れ長な目を細め緑の瞳をリディアの耳に向けながら呟く
リディア
「あ、ありがと…」
緊張から解放されたリディアは小さく息を吐いて自分を落ち着かせようとした