第12章 ep.11 潜入と不安材
バレないように壁に凭れ掛かり息を吐き出すと丁度、この階に降りてきたフリントがリディアに近付く
フリント
「大丈夫か、リディア」
リディア
「あ、フリント。…うん、大丈夫」
見知った長年、共に過ごしてきたフリントの姿を見た瞬間にリディアは驚くほど落ち着いた。
フリント
「…ヴィンスとノムの数減らしは順調みてぇだ。俺等も何とか鍵を手に入れて、さっさとガキを助けるぞ」
リディア
「そうだね、もう少しだけ近付いてみる」
フリント
「おう。気を付けろよ」
隠れて手を軽く合わせると、また別々の方向へと歩き出す。
ヴィンス
「もう少しだけこの辺を減らしておきたいな」
そう呟くとヴィンスは廊下の死角になっている位置から様子を窺い、人数を把握する。
同じタキシードを身に纏っている男三人に近付いていくと、ヴィンスは流れるような動きで確実に気絶をさせる
ヴィンス
「よし…」
ノム
「……わりぃな、こっちも仕事なんでね」
気絶をさせた男四人を見えない所へ運んだノムは見下ろしながら呟く。
次へ行こうとした時に矢がノムを目掛けて飛んでこれば、慌てて避ける
ノム
「何で矢が……っ、て」
左手の甲を掠ったようで血が僅かに流れるが深くないため、ノムは気にせず次の場所へと向かった
リディア
(どうしたらあの人の視線に入るかな)
他の婦人へワインを注ぎながらリディアは考える。
すると…
セレアーニ
「ちょっと、そこの方」
視線を上げるとセレアーニ婦人のレースの手袋に纏われた指がリディアをさしていて、慌てて近くへ寄る
セレアーニ
「貴方、素敵ね。…今日の夜に私の部屋へいらして」
リディア
(お断りします…)
そんな事を胸中で思いながらも告げるわけには勿論いかないので、了承するように綺麗にお辞儀をする
セレアーニ
「それから、この鍵を貴方に託すわ。…子供達も自分と同じ吸血鬼の方が安心すると思うし…お願いできるかしら?」
渡される鍵をしっかりと受け取りながらリディアは再び綺麗にお辞儀をする。
リディア
(こんな事を言ってるけど…この人は売買をしてる人なんだ)
怖い、とリディアは感じた