第4章 大人の階段
平然と答え、回された腕の力が緩んだかと思うや否やぐいっと肩を掴まれる。
呆れる間もなく正面に向かい合って腰を抱かれ、もう片方の手はするりとくびに回して少々強引に引き寄せられた。
ちゅっと、掠める程度に重なった唇。
脳裏によぎった夏休み前にされたあのキス。
すぐに離れていった先生のそれは薄く狐を描き、無意識のうちにこの目は唇の形を追っていた。
何をしているのか。
それは誰よりも私が聞きたい。
でもきっと、私は先生に触りたかった。
少し低めの、その体温に。
悪い顔をしている、この大人に。
そしてこの人は言う。
さも当たり前であるかのように、一切悪びれた様子もなく。
「これから起こる事実がどうであろうと、お前さえ黙っていれば済む話だと思うんだが」
よくもまあ、しゃあしゃあと。
「何か問題あるか?」
「・・・・・・いいえ、特には」
「そうか。なら大人しく抱かれろ」
ずるい人。
満足気に目を細めた先生の腕に、抗う気持ちはどうせ沸いてこない。