第4章 大人の階段
七月の末に一学期を終え、夏休みに入ってから一週間と少しが過ぎた。
特に何か変わった出来事がある訳でもない日々、暇な時間はバイトに充てる。
あとはだいたい友人と過ぎすか、同じく暇をしている奴らと集まってみるか。
平和な毎日は夏の暑さと共にスローペースで流れていった。
「なあ、もうちょっとあっち行ってみませんか?」
「ああ、うん」
けれど現状は。
ちょっとめんどくさい事態に在り。
日が沈む頃に打ち上げを始める花火を目前に、今日は一日中ずっと年下の彼氏のご機嫌取りが続いていた。
格好いい見た目と言動の割に性格がさっぱりしているジンが浴衣を着てくることはなく、喜びそうな言葉を選んで誉めてやる手間が省けたのは幸いだっただろう。
男の子を賞賛するための言葉なんて私には分からない。
「さっきよりも人増えてきましたね?」
絶景ポイントと言われている河川敷に早々に訪れた私たち。
まだ少し明るい時間帯にも拘わらず、宣伝効果もあってか辺りは賑わいを見せている。
楽しそうにはしゃぎながら私を見下ろして言うジンに、そうだねと笑って返す私は半ば心にあらずだ。
明るいとはいえすでに夕刻。
そのくせ一向に下がらない気温には気も減る。