第2章 突然のキス
「お前はいいだろうよ、さっきプールだったじゃねえか。オレなんかこのクソ暑い中スーツだぞ」
人のノートでやる気なく顔を扇ぐ先生は、長袖のシャツを肘上まで捲り上げている。
ジャケットは着ていないしネクタイも緩めていないし、格好自体はこの学校の男子生徒とそこまで差はない。
第一この人は傾向的に潔癖の気が強く、学校プールをいつだったか地獄の池と称していた記憶があるがその辺はどうなんだ。
「ジャージでも着てたらどうです?」
「ジャージ着て教壇立っててみろ。脳味噌筋肉だと思われる。それ許されんのは体育教師だけだ」
「・・・今、全国の体育教師敵に回しましたね」
理数系の教師の多くは白衣まで着ていると言うのに、この人は我慢だ。
遠い目になって前を向くと、先生はノートを地面に下ろして私の頭に手を伸ばしてきた。
指先で人の髪を弄ぶが、私を眺める先生の表情はどことなく不満げ。
「たいして冷たくもねえな。微妙に湿ってて生温かい」
「・・・・・・なんか汚い感じの言い方やめてくださいよ」
四時目が体育だったため、プールに入った私の頭はまだ濡れている。
乾ききっていない髪に指をくぐらせて遊ぶ先生は、私に向かって真顔で言った。
「レティシア。頭から水被ってこ来い」
「人を氷嚢代りにしようとしないでください」
「スッキリすんだろお前も」
「・・・・・・馬鹿なんですかあなた」
学校の水道で頭から水を被る男子生徒。
稀にいないこともないけど、私はそこまで捨て身になりたくない。
しかも私、女子だし・・・・・・。