第6章 見合い?
汚いの、嫌いって。
自分でも言っていたのに。
そのはずなのに。
私のことは簡単に抱き寄せる。
「・・・・・・先生」
「三十秒黙ってろ。予鈴が鳴る」
私を抱きしめながら、先生が提示したその数秒。
静かな心地でトクトクと感じる心音を数えているうちに鳴った予鈴は、おそらく本当に三十秒くらい後だった。
「・・・なんで分かったんですか?」
「俺の正確な体内時計をナメるな」
「どんなスペック・・・」
「惚れるだろ?」
そこで口を噤んだ。
その先は答えられずに。
黙りこくった私を先生はあっさり放して、それ以上追い立ててくる事もなくさっさと屋上のドアを開いた。
「今日バイト終わる頃迎え行くからな。逃げんじゃねえぞクソガキ」
「なに勝手なこと、」
「攫ってやる」
そのたった一言に。
過剰に高鳴った鼓動がどういう事かは考えたくない。
反論は聞き入られず、ドアを開いたままさっさと出て来いと目線で示してくる。
渋々その指示に従い私が屋内へと足を踏み入れると、先生はスーツのポケットから鍵を取り出してドアを施錠した。
「・・・・・・どうせ全部先生の思い通りだ」
「嬉しいだろ」
「いえ、全く」
誰もいない階段を並んで下りながら、可愛げもなく言い返せば先生は満足そうに笑った。
隣から伸びてきた手がボスッと私の頭に落ちてくる。
そのままわしゃわしゃと掻き乱されるけど私はそれを振り払う余裕がなかった。
顔が赤いのは、多分バレている。