第15章 箱庭に流れる音色
「はい!ありがとうございます」
更紗は鼻歌を歌い出しそうなほどの笑顔で素直に前に向き直り、優しく払い落としてくれている振動に身を任せている。
そんな無防備な姿がいつもなら愛おしくなるが、これから向かう任務の危険性や場所を考えると杏寿郎の中に不安が渦巻いてくる。
(……大丈夫だとは思うが)
この日の任務のために杏寿郎は鍛錬には一切手を抜かず、場所に関することには更紗の耳にたこができるほど警戒を怠るなと言い聞かせ、体術も叩き込んだがそれでも全ての不安を拭えない。
だからと言って共に任務に赴く天元を始め、炭治郎たちに更紗の警護で手を煩わす事は出来ないのだ。
「更紗にはどれほど準備を整えたとて、心配が消えないので困る……無事に戻ってくれ」
小さな杏寿郎の呟きは更紗の耳で言葉として認識出来ず、少しだけ顔を後ろに向けて上目遣いで問いかける。
「え?何か仰いましたか……ひゃっ!ん……」
杏寿郎は更紗の着物の襟元を僅かにずらし、首から背中へと唇を這わせてから強く吸って自らの痕をつけた。
そして恥ずかしさから赤くなった首元に自分の腕を緩く回し、華奢な体を胸へと抱き寄せる。