第15章 箱庭に流れる音色
その後ろ姿を杏寿郎が確認したかと思うと、ほんのわずかな時間で更紗が湯呑みを持って帰ってきた。
「お待たせしました!すみません、天元君の気配に気付けず……私もまだまだ……わわっ!」
急いで戻ってきたからか、居間と廊下の縁で躓き転びそうになるが、杏寿郎が抱え上げてやる前に床に着いていた足を蹴りあげ、見事宙返りをして卓袱台の手前ギリギリで着地した。
目を丸くする2人を前に、更紗は湯のみを握りしめたまま顔を赤くして俯いてしまった。
「……あの……はしたないところをお見せして……申し訳ございません。つい任務先での癖で……」
未だに固まっている2人を視線だけで様子を伺っていると、杏寿郎は満足気に頷いて頭をポンポンと撫で、天元は例の如く吹き出した。
「咄嗟の行動も大したものだ!だが、家の中だと更紗が怪我をしてしまう。可能な限り控えるようにな!」
「家の中で受け身とる女、初めて見たわ!派手に面白ぇし、こりゃ期待できるわ!頼もしいことこの上ねぇ!」
ひとまず叱責がないことに更紗は胸を撫で下ろすも、なんとも生温かい2人の視線に顔の赤みは取れないままだ。
それでもこのままだと話しが進まないので、杏寿郎が座るように背に当ててくれた手に従い、ゆっくりとその場に腰を下ろした。