第14章 研究と緊急招集
今までで自分に向けられた中で殊の外穏やかで優しい眼差しや言葉に更紗はただ頷き、杏寿郎はそんな小芭内の様子に喜んでいるのか目を僅かに細め口角を上げた。
「伊黒、更紗や俺を気遣ってくれたこと感謝する。君もあまり思い悩まんようにしてくれ」
「……善処する」
そうして今度こそ2人に背を向けて蝶屋敷の庭を歩いていく。
その後ろ姿を見つめながら、更紗は小芭内に言われた言葉を脳内で反芻し、杏寿郎へポツリと零す。
「杏寿郎君、また時間がある時に私の胸の内を聞いていただいてよろしいでしょうか?」
小さな声だったが杏寿郎の耳にはしっかり届いた。
小さく消え入りそうな声でも、自ら話そうとする意思が感じ取れた事が嬉しく、杏寿郎は満面の笑みで肩を抱き寄せて答える。
「勿論だ!いつでも聞くからな!」
一方、小芭内はその場からそそくさと立ち去って行くが、鏑丸がひっそりと更紗たちに手を振るように体を左右に揺らしていたので、更紗が手を振り返してみると、嬉しそうに体をピンと伸ばしてから前に向き直って何食わぬ顔で伊黒に寄り添う。
その様子に2人は顔を見合わせて笑った。
「鏑丸は伊黒の心の内をこっそり表しているのやもしれんな」
「そうであれば、凄く嬉しいです!」
こんな会話が繰り広げられていた事を、小芭内はもちろん知らない。