第1章 月夜
痛みと過度の疲労から立つことも儘ならい状態であるが、目の前にいる人物が何者か分からないので後退りながら様子を伺っていると、男は勢いよく振り返り更紗の方へ歩み寄ってくる。
「そこの少女よ!大丈夫か!?」
(え、木霊するほど声が大きい……)
驚きつつも、更紗は肩で息をしながら声の主に
「大丈夫、です。あの……化け物は??それに、あなたは……」
と質問しようとするも体に限界がきた更紗の言葉は途中でとまり、前のめりに倒れていく。
地面への衝突の衝撃に身構えたが、衝撃は来ず代わりに温かい腕に抱きとめられていた。
「鬼は倒した!そして俺は鬼殺隊の炎柱 煉獄杏寿郎と言う者だ。よく生きていてくれた」
先程より声量を落とし労るような声音にかわっている。
その声とあいまうように丁寧な動作で更紗を抱き起こし、近くの木に優しく持たれかけさせてくれた。
心配そうに覗き込む大きな目は、赫くまるで炎のような力強さと暖かさが垣間見えた。
その目に安心した更紗は鬼や炎柱や鬼殺隊と言うものに心の中で首を傾げるが、今はそれを聞いている場合ではないと判断し鬼と呼ばれる異形を倒した煉獄杏寿郎と言う男に懇願する。