第1章 月夜
(ウソ……どうして!?あの人は……!?)
言葉を発する事が出来ず、体も酷い痛みで動かせない。
こうしてる間も、化け物はまるで更紗の恐怖に慄く表情を楽しむようにゆっくり近付いてくる。
「見つけタ、マレチの女!早く喰わせろぉー!」
その言葉を合図に化け物は速度を上げる。
(殺されるわけには……いかない!!)
大きく息を吸い込み、ほぼ勢いだけで立ち上がり少しでも化け物から逃げる為、背を向けて死に物狂いで走り出す。
「逃げテも無駄だ!」
(それでも……それでも走らなくては!約束を果たさないと!!あぁ、誰か……)
化け物の息遣いが間近で聞こえ更紗が諦めかけたその時、金と深い赫の何かが前方からすごい勢いで駆け上がってきた。
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火ーー」
何かが判断できる前に男の声が後方から聞こえると同時に、爆音と夜の山では考えられないくらいの光が弾けた。
恐る恐る足を止め振り返ると、そこには太陽のような金色に毛先が赫の髪、燃える炎のような模様の羽織を着た男が右手に持っていた刀を鞘に戻している姿があった。
(化け物を倒してくれたの……?人……だよね?)