第1章 月夜
「お願いします!!どうか、助けてください!この先の……屋敷に私を庇ってくれた人がいるんです!どうか……ゴホッ!」
咳き込む口を抑えた手のひらにベッタリと血が付着する。
化け物に背中を裂かれ、更には木に激しく衝突したのだ。
内蔵が傷ついてるのであろう。
「分かった。だが、重症の君を置いていけない。抱えていくが、耐えられそうか?」
吐血する程の背中の傷。命に関わる傷なので、応急処置を施して連れていかなくては、そのまま事切れてしまうかもしれない。
(それに、先程の鬼が稀血の女と叫んでいた。このまま放置はできん。だが……この傷でいつまでもつか)
「大丈夫……です。10秒ほどお待ちください」
「10秒?」
煉獄が更紗の言葉に疑問に思って見つめていると、不思議な出来事が起こった。
更紗が目を瞑ると同時に、少女自体がその髪と同じ色の白銀の粒子に包まれたのだ。
(これは!?一体何が……?)
信じられない不思議で幻想的な光景に、大きな目を更に大きく見開いて煉獄が息を飲んで見ていると、更紗の目がゆっくり開いた。
それと同時に光も徐々に小さくなり、やがて何事も無かったかのように消え去った。