第13章 新居と継子たち
3人に語り掛けているからか明後日の方向を見ているもののその表情は自信に満ち溢れており、語る言葉に嘘はないと分かる。
しかも杏寿郎の鍛錬を受け丙まで登りつめた更紗がいるのだ、その指導力もおりがみ付きとなる。
そんな現状に興奮したのか、今まで静かだった伊之助が身を乗り出した。
「ついてく前にヒョロがりと闘わせろ!ヒョロがりに勝てば俺の目標も甲になるって寸法だ!」
伊之助は言うが早いか勢いよく立ち上がり対面に腰を下ろしている更紗に飛び掛かった。
だが更紗はその速度を上回る速度で後ろへと僅かに飛び退き、肩を掴もうとした伊之助の手は空を切った。
伊之助はそれでも更紗を捕まえようと腕を伸ばして細い手首を掴んだはずがその手を反対に掴まれ、そのまま両手で優しく包み込まれてニコリと微笑まれてしまった。
更に杏寿郎に顔をズイと近付けられて身動きが取れなくなった。
「ふむ、勢いも向上心も申し分ない!だが、いきなり人に飛び掛かるのは褒められん!更紗に勝ちたいならば後ほどその時間を作るので、これからはいきなり飛び掛かってはいけない!いいか?」
至近距離での杏寿郎の迫力のある眼力、真っ当な言葉と魅力的な提案に、伊之助は無意識に何度も頷く。
「よし!では先に離れに行って荷物の整理をしてくること。離れは母屋の裏側にある。好きに使って構わない」