第12章 夢と現実 弐
そんな2人の横を炭治郎が日輪刀を握りしめて猗窩座のあとを追うように走り去り、刃に火を灯してそれを全力で投げた。
「自分で闘いを挑んだくせに逃げるな!戻って来い!次は俺が相手になってやる!」
炭治郎が刃に灯した不可解な火や言動に更紗の力が緩まっていたが、すぐにもがき始めた。
「追わないと……私が油断したせいで逃がしてしまったんです!私が杏寿郎君の足を引っ張ったんだ!離して、追わせてよ!」
腕から抜け出そうとする力はいつもの更紗では考えられないもので、杏寿郎でも気を抜けばその体を逃しそうなほどだ。
そんな今にも飛び出しそうな更紗を腕の中にしっかり抱きとめ、杏寿郎は宥めるように話しかけた。
「違う、更紗の責任じゃない。刀が折れてしまったら俺たちはただの人間だ。鬼には敵わない。それに君は圧倒的な実力差があったにも関わらず怯むことなく闘い続けた……この場の全員を守り抜いたんだ。竈門少年も心配する……もう叫ばなくていい、怪我に響くぞ」
「そんな事ない!杏寿郎君の刀は折れてなかった、私がもっとちゃんとしてたら……!うぅ……逃げないでよ!私はまだ闘える!闘い続けろって言ったくせに逃げないで!」
猗窩座が走り去った方角に腕を伸ばし、掴みようのないものを捕まえようとするが姿すら見えない者はやはり捕まえられない。