第12章 夢と現実 弐
しかしその指先が頬に触れるか触れないかの距離まで来て、猗窩座は我に返ろうと頭を振って腕を引いた。
そして苦しげな表情で白み出した空に目をやり焦りの色を浮かべ力を抜いていた体に一気に力を戻した。
更紗と杏寿郎もそれと同時に、それぞれの日輪刀を握る手を含め猗窩座を逃すまいと全身に懇親の力を込める。
「離せーー!」
猗窩座は頸へ日輪刀がこれ以上侵入せぬように阻止している左腕に力を入れ、右腕で杏寿郎を殴り飛ばそうと再び振りかぶったが、今度はそれを直前で捕まれ阻まれた。
「離さん!ここでお前の頸を斬る!」
猗窩座の右手首は杏寿郎に捕まれ、左腕は頸を切断しようと迫る刃の阻害に使われ……右大腿部には貫通して地面まで日輪刀が突き刺さり、その場に体が縫い付けられている状態だ。
杏寿郎の力は強く振り払うことは容易ではないとすると、更紗を蹴り飛ばすしか逃れる術はない。
「あ"あ"ぁーー!!退けーーっ!」
地に響くような咆哮に2人の鼓膜は悲鳴をあげるも力を緩めず日輪刀を握る続ける。
そうこうしている間にも朝日は昇り続け、今にも山間から顔を出し猗窩座の体を焼き尽くそうとしていた。
焦りからか頸にかかった刃を阻止する手の力が緩まり、杏寿郎は一気に半分ほどまで進ませる。