第3章 出会い
千寿郎は止めどなく出てくる更紗への疑問も、兄が自分に話さないのだから何か事情があるのだと納得して頭の中から振り払い、片付けと昼餉の準備を更紗と共に早々に終わらせた。
杏寿郎の鍛錬を見る前に2人が向かった先は井戸の前。
煉獄家には冷蔵器なる、食材を氷の冷気で冷やせる文明の利器が置かれているが食材優先であり、熱いお茶を入れるとすぐに氷がなくなってしまうので、冷やしたいものがあると井戸に吊るして冷やしている。
どうやら朝に居間へと来る前に茶を沸かし井戸に吊るしていたようだ。
それを引っ張りあげ、2人は仲良く道場へ向かう。
道場の扉は開かれており、遠目からでも杏寿郎の姿が確認出来た。
道着を着た杏寿郎は木刀を素振りしている。
初めて見る杏寿郎の凛と張り詰めた雰囲気に、更紗の心臓はドキリと一瞬鼓動が早くなったが、その後はただただその姿に魅了されたかのように目を離せなくなった。
人の命を救うために己を磨く姿は、更紗の目には眩しかった。
「綺麗ですね」
「はい、僕も兄上のこういった姿、思い、姿勢がすごく美しいと思います」
それまで一心不乱に木刀を振っていた杏寿郎が、ふと2人の気配に気付き表情を緩めて入口までやって来た。