第12章 夢と現実 弐
体温と心拍数の急激な上昇から更紗の体は熱に浮かされた感覚に陥っていたが、頭は妙に冴えわたり炎の残影で姿がちらちらとしか確認できない猗窩座の動きを感じ取れていた。
どのように動き防御するのか……攻撃する予兆はあるのかなど朧気に理解出来る不思議な感覚。
だからといって圧倒的な実力差が埋まるわけでも、ましてや上回るわけでもないので決定打は打てない。
自分1人ではどうにも出来ない状況であっても後ろからは更紗の案を渋々受け入れ、最大火力の技を放ちとてつもない速度と威力で迫り寄ってくれている杏寿郎がいるのだ。
普段ならば避けられない奥義も今は先の感覚から杏寿郎の動きや距離もある程度把握できる。
後は自分の引き際を見極め、杏寿郎を猗窩座までギリギリまで引き寄せる役目を果たせればいい。
(あと少し……!今だ)
「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎!」
技を途切れさせて杏寿郎の姿を視認させないよう、猗窩座の頭より上から地面に掠るまで日輪刀を振り下ろした。
刃の軌道に沿って鮮やかな炎の虎を発現させ最後の目くらましを終えると、地面にも技を掠らせた影響から更紗の体はまるで紙切れのように後方上空へ吹き飛ばされていった。