第12章 夢と現実 弐
更紗の後を走りながら、杏寿郎は頭の中で先ほど耳打ちされた言葉を反芻させていた。
『もう一度、私は全身の体温を上昇させて攻撃します。その攻撃から出る炎の残影で猗窩座の視界を遮るので、私の事は気にせず師範は最大火力の攻撃を仕掛けてください。もちろん合図も必要ありません……大丈夫、必ず寸前で身を引きますので』
最大火力と言えば更紗が唯一使いこなせていない炎の呼吸の奥義、玖ノ型となる。
杏寿郎が自ら編み出した技で自身の名を冠した、威力・速度共に攻撃に特化した炎の呼吸の中でも群を抜いた技である。
一度だけ更紗に手本として披露したのでそれがどのようなものか理解しているはずだが、本当に理解しているのか杏寿郎は疑問に思った。
自分が扱えない技を避けることは容易ではない。
それも視認できない背後からとなればその難易度は遥かに高くなる。
だが更紗が杏寿郎を後々苦しめる事になる嘘をつくとは考え辛い。
もうここまで来たら信じて最後まで付き合うしかない。
「生きて一緒に戻るぞ、更紗」
杏寿郎は立ち止まり2色の激しい炎を放つ華奢な背中に言葉を送って、日輪刀を握りしめ腕ごと上半身を後ろに捻った。
「炎の呼吸 奥義 玖ノ型・煉獄!」