第12章 夢と現実 弐
「かしこまり……ました。信じています」
更紗は不安と恐怖に表情を歪ませながら、杏寿郎の命令に従い炭治郎たちがいる場所へと下がっていった。
「はぁ……君、俺がいると分かっていて、簡単にあの少女を攫えるとでも思ったのか?」
「いいや、俺からすればあの女を攫うなど二の次だ。お前を見た瞬間、優先順位は入れ替わった」
上弦ノ参は唇の端を釣り上げて笑い、様子を伺っている杏寿郎へと話しを続けた。
「俺の名前は猗窩座。お前の名は?」
「俺は炎柱 煉獄杏寿郎。それで、優先順位が変わったとはどういう意味だ」
日輪刀の刃を構えなおし、杏寿郎は一寸の隙も見せず猗窩座の答えを待った。
「俺は強い奴にしか興味がない。あの女は弱く杏寿郎は強い、それだけだ」
「更紗は弱くない。君の価値観だけで判断するな、あの少女は柱にも劣らないほどの強い心の持ち主だ」
猗窩座はそんな強さなど価値はないというように笑い飛ばした。
「心が強くても力が弱ければ何も守れない!弱い奴はいつでも強い奴に淘汰される、それが自然の摂理だ」
自然の摂理で言えば猗窩座の言うことに間違いはないだろう。
だが、力の強さだけでは人は生きていけない。
特に鬼殺隊では心の強さがあってこそ、成り立つものが多いのが現実だ。
それを猗窩座に説いたとて理解出来るものでもないが。