第12章 夢と現実 弐
更紗の耳に、低く誰の声よりも安心する声が響いた。
その声の主、杏寿郎は強烈な一撃で上弦の鬼の伸ばしていた腕を肩から切り落とし、更紗の腕を自分の方へ引き寄せて胸元に抱きとめると後ろへ跳躍した。
「大丈夫か?!怪我はないな?」
「ございません。ですが、あの鬼……上弦ノ参です」
杏寿郎は上弦ノ参を表情を険しくして見据え、更紗を自分の背に移動させてそのまま話した。
「そのようだな、もう腕が再生している。みたところ更紗目的でここへ来たようだが、俺が相手をする。君は下がって竈門少年たちのそばで待機しているんだ」
こう言われることは更紗には分かりきっていた。
下弦ノ壱でさえ一人では倒せなかった自分に、上弦ノ参を相手に出来るとは到底思えない。
この場で通用する力を持ち合わせているとすれば、炎柱である杏寿郎しかいない。
だが、杏寿郎でさえ勝てる確証はない。
「いなく……ならないですか?私の前からいなくならないですか?」
「更紗……待機命令だ」
いつも通りの安心させてくれる言葉は返ってこなかった。
つまり、約束は出来ないということなのだろう。