第3章 出会い
そうして各々が自分達のするべき事を成すため、杏寿郎、更紗と千寿郎と二手に別れて居間を出ていった。
杏寿郎は鍛錬の為、敷地内にある道場へ、更紗と千寿郎は食事の片付けのために台所へ。
食器を運ぶ2人の目の端にひっそりと置かれた箱膳がうつった。
完食されてはいないが、どれも半分以上は減っており槇寿郎が少なからず腹を満たせたと一目で分かった。
だが、千寿郎は悲しげにそれを見て更紗に謝罪する。
「すみません、これでもいつもより食べてくださっているんですが……せっかく更紗さんと兄上が作ってくれたのに、こんな形になってしまって」
2人が作ったご飯をも残してしまう父親に少し悲しんでいるのだろう。
だが、更紗は全く気にしていない様子だ。
それもそのはず、あの屋敷で自分が作ったご飯を完食されない事なんて日常の光景だったからだ。
「そんなに気に病まないで下さい。いつもより食べてくださったのなら、次は今より食べてくださるかもしれません。それに、お酒を嗜まれているようなので、お昼は私達の物とは別に消化のいい、食べやすいご飯を一緒に作りませんか?」
更紗の言葉にヘニョンと下がっていた目尻は元の位置に戻り、千寿郎は笑顔になった。