第11章 夢と現実 壱
杏寿郎はその言葉に首を左右に振った。
「柱として全員の無事の確認、対処をするのは当たり前だ。そう遠慮する事はない。全て確認、処置を終えればすぐにここに戻る。しばらくここで待っていてくれ」
そう言って杏寿郎は頷く更紗の体を地面へとゆっくり横たえせてやり、優しく頬を撫でて列車の方へと走り去っていった。
「ふぅ……まずは腕と足を治さなくては」
更紗は杏寿郎を見送ると、早速自身の治癒に取り掛かった。
痛む腕をゆっくり上げ損傷の具合を確認する。
脳に響くような鋭い痛みから、おそらく筋繊維が傷付いているのだろう。
特に利き腕である右腕の痛みが酷いので、左手でそっと右腕に触れ銀色の粒子を纏わせる。
しばらくして両腕の治癒を終わらせると、上体を起こし一息ついて杏寿郎が走り去っていった方角へと向き直る。
杏寿郎は乗客全員の確認を終えたようで、炭治郎の前へと移動して何かを指導しているように見えた。
「呼吸による止血方法でしょうか?あれ……なかなか集中力を必要とするので、怪我をしてる状態だと慣れるまで辛かった記憶が……」
かつて更紗も杏寿郎に教えてもらい、それを実践していた。
今でこそ負担なく使えるようになったが、それでも集中力を要するので治癒に頼りたくなってしまう。