第11章 夢と現実 壱
運転手は自分の思いを否定され、更紗に恨みのこもった視線を向ける。
「お前みたいな小娘に何が分かる?!俺には家族が全てだったんだ、それをいきなり奪われた気持ちがお前に分かるのか?!せめて夢の中で会いたい気持ちが!」
更紗自身、多くの悲しみを経験している。だが、悲しみに打ちひしがれている人にそれを語ったところで、その人の悲しみを癒すことは出来ないと理解している。
運転手の完全なる八つ当たりに対し、更紗はそれに怒りを露わにはせず、跪いてただ男性の手を両手で握りながら祈るようにそれを額に近付けた。
それはほんの数秒の行為だったが運転手は自分の手を握る皮膚の厚くなった年頃の少女らしからぬ手の感触、悲しみに寄り添おうと精一杯祈る少女の痛みに堪えるような表情に自然と涙が零れてきた。
「君も……同じなのか?大切な人を亡くしたのか?それでも……他人のために闘うのか?」
更紗は笑顔を向けてから手を離し、立ち上がって日輪刀を握りしめ、運転手を庇うようにして背を向け刃を構えてから答えた。
「私のためですよ。鬼が原因で増える悲しみを、これ以上私が見たくない……ただそれだけです」