第11章 夢と現実 壱
「か、髪が!確かに名残惜しいなぁ……とは思っていましたが、伸びるのですか?!……無駄な力を使った罪悪感が……この状況を皆さんにどう説明すれば……」
更紗の髪への未練が頭皮に作用したのだろうか?
詳細は全くもって本人にも分からないが、伸びてしまったものは受け入れるしかない。
更紗はこの後、この何とも言い難い事柄をどう説明しようかと悩みながら、とりあえず邪魔にならないよういつも通りに結い上げていると、どこからともなく車輌に声が響き渡った。
『君の力、面白いねぇ!指の1本でも食べたら僕にもその力が宿るのかなぁ?』
まさかの結果がまさかの状況を作り出してしまった。
不可抗力とは言え、下弦ノ壱の興味を引くことをしてしまった自分に心の中で涙を流しながら、すぐに来るであろう攻撃に備えて日輪刀を構える。
「髪、耳に続いて今度は指ですか……これ以上、鬼にあげられるものなんてこれっぽっちもありません!」
しかし鬼がこちらの主張を聞き入れる訳もなく、車輌内には今までとは比べ物にならないほどの目と肉塊が出現した。
まるで前方3両分をここに集結させたのではと思える量だ。
今の更紗の力量で対処出来るか微妙なところだが、まだ限界ではないし、柱である人に任された場所だ。
簡単に音を上げるわけにはいかない。
『大丈夫、痛みなんて一瞬だから』
そしてプツリと声が途切れると、目の全てが更紗を捕らえ肉塊が一斉に襲い掛かってきた。
「炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり」
前方からの攻撃を全て弾き飛ばすが、大量の目の視線から逸らすことに気を取られ威力が半減してしまった。