第11章 夢と現実 壱
「杏寿郎君……」
任務中に名前を呼ばれ、杏寿郎は更紗が個人的に許可を求めているのだと理解した。
「許可しかねる。今は一分一秒を惜しんで鬼を探さなくてはならない。任務後なら条件次第で考える。更紗の力はもしもの時の切り札だ。簡単に一般の方に使えるものではない、分かるな?」
更紗も杏寿郎の返答は予想していたのか、少し瞳を悲しげに揺らしただけで反論はせずに頷いた。
「では指示を出すのでよく聞くように!おそらく鬼は先頭車輌付近に潜んでいる。それを竈門少年と猪頭少年で探し出し倒して来い!黄色い少年と竈門妹は前方3両の警戒。更紗は竈門少年と猪頭少年が下弦ノ壱に集中出来るよう、前方3両の様子を伺いつつ怪我人が出た際の保護!俺は後ろ5両の警戒を受け持つ、何か質問は?」
『ありません!』
的確な素早い指示に全員が一斉に答えると、杏寿郎は頷く。
「よし!必ず鬼を倒し、一般の方々を守りきるぞ。俺は君たちを信じている!では、それぞれ配置に移動!」
杏寿郎の合図を待っていたかのように、列車に異変が起こった。
太いミミズのような肉塊が車輌を覆い始めたのだ。
それでも全員が指示の通り配置へと移動し、鬼の討伐と乗客の救出に乗り出した。