第3章 出会い
そんなほのぼのとした雰囲気の中で、更紗がコポコポと茶を湯呑みに入れていると、スパーンッと勢いよく襖が開いた。
「戻ったぞ!さぁ、朝餉にしよう!」
元気に到着した杏寿郎は素早く席に座り、2人の顔を見て頷く。
「いただきます!」
杏寿郎の声を合図に2人も『いただきます』と言うと各々食事を始めた。
サツマイモの味噌汁を口にした杏寿郎と更紗の
「わっしょい!」
にはもう千寿郎も何も言うまいと笑顔で見届けていたが更紗が他の食べ物を食べる度に小さい声ながらも、自分の兄と同じように
『美味い!』
と妙にハキハキと言うのには度肝を抜かれた。
「あ、あの、更紗さん、その美味いと言う掛け声は……?」
更紗は千寿郎の問いかけに、ニコリと微笑みながら答える。
「杏寿郎さんに教えていただきました」
その言葉に杏寿郎は、うむ!と満足気であるが、千寿郎は頭を抱えた。
自分より年上だが、年頃の少女が食事中に『美味い!』を連呼するのはいただけない。
(お嫁の貰い手がつかなかったら、兄上はきちんと責任を取るのでしょうか?)
心労の絶えない弟は、優しく更紗に食事中に美味いと連呼するのはやめた方がいいと教えてやった。
意外にも早く千寿郎に優しく教えて貰え、更紗はお嫁の貰い手がこの一件で無くなると言う危機を、本人の知らぬところで回避させて貰えたようだ。