第11章 夢と現実 壱
更紗が皆といた車輌に戻ると、杏寿郎といつの間にか木箱から出ていた禰豆子を除いた3人が、途中で焼き切れた跡のある縄を手首から外しているところだった。
いち早く外し終えていた杏寿郎は更紗の姿を確認すると、他には目もくれず走り寄って体を抱きしめた。
「無事で安心した!目覚めると更紗の姿だけがなく、肝を冷やしたのだぞ!」
「ご心配おかけして申し訳ございません……皆さんもご無事で安心しました」
ひとしきり2人が安心したあと杏寿郎は更紗を胸元から僅かに離して顔を覗き込み、大きな目を更に大きく見開いた。
「この髪はどうした?!何があったのだ?!」
「あの……これは」
杏寿郎の声に反応して全員が更紗の周りに集まってきたのでこの車輌で起こった事を教えてもらい、更紗はこの髪型になった経緯を話した。
夢の世界に閉じ込められたこと、その世界を壊してこちらに戻ると下弦ノ壱が目の前にいたこと、下弦ノ壱から逃れるために髪を切り落としたこと。
そして1番伝えなくてはいけない事を伝える。
「下弦ノ壱は頸を斬っても死にませんでした。本体は別にあるらしく、鬼の体と頭は床に溶け込むように消えてしまいまして……とどめはさせませんでした」