第11章 夢と現実 壱
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」
舞うようにフワリと身を翻し強烈な一撃を放って頸を切り落としたが、あまりの手応えの無さに更紗は床に転がった頭を見据える。
いつもならすぐに塵と化すはずの頭は、いつまでも形を保ったまま消える気配がない。
「どうして……」
「不思議だよねぇ?頸を斬り落としても消えない僕が。惜しかったね、もう少し早ければ消えてたかもしれないのに。この体はただの肉の塊、僕の本体は別にあるんだよ」
生首がいきなり話し出すという衝撃的な光景に更紗は吐き気を覚えたが、少しでも情報を聞き出そうと問いかける。
「別の場所?この列車のどこかに……でしょうか?」
「列車のどこか……で間違いはないよ。あと少しで全て準備が整う。それまで仲間と仲良くいればいい、その後は君を除いて全員食べてあげるから」
厭らしい笑顔を浮かべると、鬼の頭も体もまるで床に溶け込むようにして消えていってしまった。
そこへ足を運んでみても鬼の手掛かりになるような物は何もなかった。
その代わりにそこには自分で切り落とした髪と大切にしている髪紐が打ち捨てられている。
更紗は髪紐を手に取り、肩より短くなってしまった髪にため息を零す。
「また杏寿郎君にご心配をかけてしまいますね……とりあえず鬼がなにか企んでいるのは確かです!皆さんに知らせないと」
全員を探し出そうと足を踏み出す前に、更紗は杏寿郎と同じように髪を上半分だけ結い上げ、気合いを入れ直した。