第11章 夢と現実 壱
そう言って更紗は顔を上げて男性の姿を目に焼き付け、踵を返して外へと向かって走り出す。
「待ってくれ!行かないでくれ!」
背後から更紗に向けられた男性の切実な声を振り切り、立ち止まることなく走り続ける。
涙は相変わらず止まらず視界を歪ませるが、約束を守るためにこの世界を壊して元の世界に戻らなくてはいけない。
(いつまでも忘れません……)
屋敷を飛び出してからも暫く走り続け人の気配が感じられない場所まで来ると、僅かに上がった息を整えるためにその場にかがみ込む。
「この世界を崩壊させるには私が居なくなる必要がある……腰の日輪刀で元の世界にということは、私自身の死が目覚めるための条件」
恐る恐る鞘に収まっている日輪刀の柄を握りゆっくりとそれを引き出す。
手入れの行き届いた刃は、いとも簡単に更紗の命を奪えるだろう。
「……考えている時間はありませんね」
更紗は鬼の頸を斬るための刃を自分の首へあてがい、きつく瞼を閉じて柄を握り直す。
そして刃がぶれないよう峰にもう片方の手を添え、一気に首へと沈みこませた。
血は飛び散ったように見えたが不思議と痛みは感じず、そのまま意識を手放した。