第11章 夢と現実 壱
「なぁ、このまま2人で、遠く誰も俺たちの事を知らない所へ逃げないか?何人か山に見張りはいるけどかいくぐれば逃げられます。俺はあんたが……」
このような言葉を掛けてもらった記憶が更紗にはあった。
あの時は見張りに見つかった場合に起こりえる事態を想定しただ事務的に結構ですと断った。
しかしその時の男性の顔は酷く沈み当時は首を傾げたものだ。
(断らずにその手を取っていれば、貴方は生きていてくれたのでしょうか?こんな夢の世界でなく、現実の世界で)
そう思うと悲しくて悲しくて胸が潰れそうになる。
例え鬼によって作り出された夢の世界と言えど、男性に対しての罪悪感で押しつぶされてしまいそうになった。
だからといって、男性の申し出を受ける訳にはいかない。
この手を掴めば、きっと現実の世界に戻れなくなってしまうから。
「お気持ちは嬉しく思います。ですが、私には帰らなくてはならない場所があります。貴方と共には行けません」
握られた手を離そうと力を緩めるが、男性はその手を自分の方へ引き、更紗を胸の中におさめた。
「行かないでくれ……今度こそあんたを守る。悲しい思いも辛い思いも……痛い思いもさせない!だから共に生きてほしい」