第11章 夢と現実 壱
だがそれも一瞬の事。
沈んだと思った意識は急激に覚醒し、更紗は先ほどと同じ場所に立っていた。
「今のは……?」
不審に思い車輌を見渡すと、鬼の姿どころか4人の少年少女の姿も消え去っている。
その現状を目の当たりにした更紗の顔はみるみる青ざめていった。
「鬼が連れ去った?!それなら後方車両に……杏寿郎君達に伝えなくては」
更紗は日輪刀を握り締めたまま身を翻し後方車両へと足を踏み出すも、それとほぼ同時に悲鳴と騒がしい足音が先の方から聞こえてきた。
つい数分前まで目の前にいた鬼が人を襲っているのかもしれない。
そう思うと不甲斐なさに脳内が支配されそうになるが、今は救える人を救うことが先決だと切り替え、未だに悲鳴の響く車輌へと全力で駆けだす。
いくつかの車輌を移動すると今にも取り残された人を襲おうとしている異形の鬼と、向こう側の妻引戸の前に杏寿郎たちの姿が見えた。
「更紗!俺がその人を助けるので、君がこの鬼を倒せ!」
突然の指示に更紗は返事を返せずにいたが、杏寿郎はそんな事はお構い無しに取り残された人の救助の為に動き出す。