第11章 夢と現実 壱
そうして人々に好奇の視線を向けられながらも無事に列車内に乗り込んだ。
その列車内でもやはり弁当の量は人目を引いた。
大人は売り子と服が違うので声をかけては来なかったが、幼い子供がそれを判断出来るはずもなく……
「お母さん、あれ食べたい!買って」
と言う声を耳にした時は更紗の顔が赤くなったそうな。
ようやく空いている4人掛けの席を見つけ、向かい合って座り弁当を傍らに置いて一息つく。
「出発までまだ時間はあるのですか?」
「うむ!出発するまでの間に弁当を食べ始めるぞ!いつ鬼が出るか分からんからな!」
人が行方不明になるのは決まって列車が発車してから次の停車駅までの間らしい。
つまり人々が逃げ出す可能性が皆無な時を鬼は狙っているということだ。
だとすれば確かに今が1番警戒を緩め腹を満たせると更紗も納得し、弁当の箱を1つ膝の上へ乗せる。
「そうですね!ではさっそく……」
「いただこう!……うまい!」
杏寿郎は既に弁当の蓋を開けて次々口へと運んではうまいと連呼していた。
それを笑顔で暫く眺めていた更紗も弁当を腹におさめていく。
出発する頃には2人の残りの弁当の数はたった1つだけとなっていた。