第11章 夢と現実 壱
しのぶや実弥と別れた後、お館様からの話しを更紗に伝え、先の任務の合間に別の任務をこなしながら鎹鴉の知らせを待った。
その知らせが届いたのが出発の1週間前。
現在、更紗と杏寿郎は乗り継ぎを経て目的の列車が到着する駅舎で、何人分だと誰もが2度見するほどの弁当を購入していた。
「よもや更紗も俺と同じ量を手にするとはな!いつもに増して気合いが入っているな!」
杏寿郎は12箱の弁当を両腕で抱えている……つまり更紗も同じ量の弁当を両腕に抱えているのだ。
ただ杏寿郎は両腕で抱えていてもしっかり顔が弁当から覗いているが、更紗はようやく目が出るほどしか顔を覗かせていない。
「上弦の鬼が出るかもしれないとのお話しだったので、万が一に備えてしっかり食べておかなくてはと思いまして。あ!杏寿郎君、列車が来ましたよ!」
ここに来るまでに列車に乗ったとは言え更紗は今日初めて列車を目にして乗車したので、今しがた到着した列車に鬼が出ると分かっていても気持ちが高揚してしまうようだ。
弁当の箱から僅かに出ている目はキラキラとしている。
「そんなに興奮していると疲れてしまうぞ。ほら、段差があるので躓かないように」
杏寿郎はそんな更紗を一応窘めてはいるが、表情がゆるゆるなので反応を愛でているに違いない。