第10章 裁判と約束
「10年ですか……あの食事量で考えると、その年数で済んだのが奇跡なくらいですね」
「奇跡ではないだろう!あの輩に更紗の人生の20年が奪われたようなものだぞ!」
しのぶが言った10年とは、あの屋敷で奪われてしまった更紗の寿命だ。
更紗はある程度覚悟していたのか落ち着いているが、10年というあまりにも長い年月に杏寿郎の方が激しい動揺を隠せずにいる。
「10年ってなんだァ?寿命ってどういうことだよ」
いつの間にか実弥がしのぶの横に移動してきて、先ほどから飛び交う不穏な10年という言葉の意味を言及してきた。
「私が攫われていた屋敷で消費した、私の寿命です。100歳まで寿命があったとして10年消費されたので、私が生きれるのは90歳までということになります」
至って冷静に説明する更紗に実弥は絶句するも、苛立ちを表すように片手で頭を掻きむしりながら更紗の前に跪く。
「……それは戻らねェのか?どんな手を使っても戻らねェのかよ?」
「戻りません。失ったものはどんなに望んでも返ってきてくれませんから……命の前借りをしただけです。あの屋敷で死なないようにした結果ですので、悔いはありませんよ」