第3章 出会い
そんなやり取りをしているうちに、日が高く昇ってきている。
「そろそろ千寿郎が目覚める時間だ!続きは後日、聞かせてもらっていいだろうか?」
明朗快活な状態からの穏やかな問いかけにドキッとしながらも頷く。
「感謝する、その時には今よりもっとその時の気持ちも教えてくれ」
つまり、辛かった事、嫌だった事、叫び出したかった事も教えて欲しいということだ。
「わかりました。また時間がある時にぜひ聞いて下さい」
更紗は不思議な気分だった。
普通ならば、長年蓄積された辛い思い出は話したくない。
だが、杏寿郎に話せば、その辛い思い出もここに来る為の準備だったのだと思えてくる。
それでも胸をチクリと針が刺し、血を流すような痛みを感じる時もあるが、そんな痛みも春の陽射しのような暖かさで包み込んで癒してくれる。
「うむ!では、いつもは千寿郎に任せ切りの食事を作って驚かせよう!更紗も手伝ってくれ!」
「はい!」
元気な返事を合図に、2人は台所へ向かっていく。
更紗の隣りでこっそり『サツマイモの味噌汁』と要望が囁かれたので、材料があれば作ってあげようと思う更紗であった。