第10章 裁判と約束
目の前に小瓶を差し出されるが、今の更紗には受け取るほどの力は残っておらず、それを見つめるだけに終わってしまう。
「それを飲ませればいいのだな?」
「そ、そうですが……何を」
その疑問に答えることなく、杏寿郎は小瓶をしのぶの手からそっと受け取った。
「更紗、僅かで構わないから口を開けるんだ。これを少しずつ流し込むので焦らずゆっくり飲みなさい」
「……?」
返事は出来ないようだが、杏寿郎の指示に素直に頷き口をゆっくりと開く。
「いい子だ」
杏寿郎は更紗に笑顔を向けると小瓶の中身を口へ流し込み、すぐさま更紗の僅かに開いた唇に自らの唇を重ね合わせた。
「ーーー?!」
更紗は突然の口づけに目を白黒させたが、先ほどの言葉通り口の中に苦い液体が少しずつ流し込まれてきたので、恥ずかしさを抑えてゆっくりとそれを喉へと流し込んでいく。
しばらくすると苦い液体が流れ込んでこなくなり、杏寿郎はゆっくりと更紗の唇から離れていった。
「何の薬か分からないが、落ち着いたか?体に異常は?」
顔色は液体による効果か、杏寿郎にしのぶの前で液体を飲ませるためとはいえ口づけをされた影響からかは不明だが、赤みが戻り一見すると具合は悪くはなさそうに映る。